仙蔵は 腕前といい性格といい、つくづく忍者に向いている男だ 「密書は全部で三つ。茶室の戸棚、二階にあった掛軸の裏側、濠の傍の砲台」 「…二つって言われなかったか?」 「もう呆けたのか文次郎、三つあると言われただろ」 かたや 今の俺はどうしようもない 「実習の一環とはいえ あんまりしくじると卒業に響くぞ」 「そうだなぁ」 「…いつまで動揺してるんだ、阿呆か」 この男は女子に好かれる。気が短いのにな… だが 女子を翻弄しても 深入りはしない 「しかし 真偽のほどは如何なものかな、尾浜と久々知が言っていたの話は」 仙蔵も とは結構仲が良かった この二人は特別な仲なのか、と勘繰った事もそういえばあったっけ 「俺が知るかよ」 「気になるなら見に行けばいいだろ、茶屋」 「今更会った所でどうする。俺達はお互い“友達の一人”なだけだ」 「じゃあの話を聞いて以来 注意力散漫になってるのは何故だろうなぁ?」 5.明日が怖けりゃ今日も怖い 「あのー潮江先輩…」 五年い組の二人が俺の前に現れたのは 今から一月と少し前 「おばあさんが切り盛りしている茶屋に元くのたまが働いているんです」 「おう…?元くのたまなんて沢山居るし 俺と何の関係が…」 そう言った所で 俺はもしや、と思った 普段さして関わりも無い後輩二人が わざわざ俺の許まで来て報告してきた つまり “元くのたま”は 俺と浅からぬ縁があるわけで そうなると 一人の顔しか浮かばない 「…人違いじゃないのか?」 「本人です」 「あいつは遠方に嫁いだ。今更こんな所で働いている筈無いだろ」 「いえ…逃げてきたそうです、子を授からない所為で邪険に扱われていたそうで」 が豪商の一人息子に嫁いだ事までは 俺達も知っている だが その後どうなったのか 知る術も無かった まさか あいつに限って・・・ 俺は些か動揺した 「それを俺に言って…俺はどうしろと」 「でも先輩とさんは仲が良かったそうですし 一度茶屋に…」 「今更 に会った所で」 言葉ではそう言ったものの 気にならないと言ったら嘘になる は笑顔で学園を出て行った 彼女の苦しむ姿を目の当たりにするなど 今迄は殆ど無かった 逃げる程苦しかったのか 心身共に具合は大丈夫なのか あの頃のように心から笑えているのか 余程考え込んでいたのか 仙蔵にはその日のうちに気付かれた 眉間に皺が寄ってて更に老け顔になっていたそうだ …一言多いんだよ 「お前のその顔 久し振りに見た」 「…予算が足りない時にこういう顔になってないか?俺」 「そういう時はもっとこう…苛々した暑苦しい顔だ。今はただただ老けてる」 うるせえ 俺はこれでもまだ若い 「そのしょうもない顔、私が最後に見たのはとお前が大喧嘩した時」 また、俺を悩ませるその名前 「が絡むとお前は悪い意味でどうしようもなくなるからな」 「……あいつは此処に居ないだろうが」 「でも その顔は絡みだ。何か近況でも聞いたのか?私もの友人として聞きたいぞ」 悔しいが 仙蔵には敵わないな 「…これは 尾浜と久々知から聞いたんだが、」 * * * 改めて思う 仙蔵は つくづく忍者に向いている男だと 俺がしくじった実習の後 あいつは何処かに消えて行った 大凡想像はつくが、俺は無論 見て見ぬ振りをする はもしかしたら あの頃とは変わってしまっているかもしれない の「今」を見るのが怖い俺は、全くどうしようもないな 「こんな時は鍛錬だ、鍛錬」 NEXT → (11.5.20 時間が止まったまま) |